012/ ◆5gfvybM7DI


額にバンダナを巻いた中年の男――バドラックは、草原の中で困惑していた。

「何で、俺の身体があるんだ?」
自分は一度死に、死者の魂を集める戦乙女、ヴァルキリーによって魂を拾われたはずだ。
肉体とはそのときにお別れしたはずなのだが。
(あのお固い女が理由もなく実体化させてくれるはずもねぇしよ)
もしかするとここがウワサの神界とやらで、あのいけ好かないマスクの男が
ヴァルキリーの言うところの『神』なのかしれないとも考えたが、
それならば折角集めた勇者の魂をわざわざ殺し合わせる意味が分からなかった。
「ま、何だか知らんが折角だ。この身体を満喫するとするか」
もともと彼は深く物事を考えるタイプではない。
適当に方針を決めてバッグを背負うとその場を歩き出した。
草原をしばらく歩いて行くと、一人の女が木にもたれかかっているのが見えた。
(おう、開始早々女に会えるたぁツイてるじゃねえか)
女は顔は伏しているためよくは見えないが、かなりの美人に見える。
「おいどうした、大丈夫か姉ちゃん」
バドラックは女に近づき、声をかける。
すると女は驚いたように顔を上げると、突然バドラックにすがりついてきた。
「うおっ、危ねぇ」
体勢を崩しそうになるが、なんとか持ちこたえて女を支える。
すると女は慌てて顔を上げた。
「す、すみません。
 突然こんな島に連れて来られてしまって・・・・・・人が死んで。
 私、どうすればいいのか・・・・・・」
やはりここはヴァルハラではないようだった。
こんな女が『勇者』だとはとても思えなかった。
「お、おう・・・・・・もう大丈夫だぜ、俺が守ってやるよ」
バドラックは女の行動には驚いていたが、すぐに平静を取り戻して適当に答える。
もちろんいざとなったら女を盾にしてでも逃げるつもりだった。
「ああ、ありがとうございます・・・・・・」
バドラックの言葉に女は安心したのか崩れるように俯く。
女の行動は少々不審であったが、バドラックはすぐにその考えを打ち払った。
(ま、状況が状況だからな。俺みたいな良い男にすがっちまうのも仕方はねえ)
先ほど顔が見えたがかなりの美人だった。しかも言動からすると良いトコのお嬢さんらしい。
バドラックは顔をにやけさせながら、どさくさに紛れて女の腰に手を回す。
少しは抵抗されることも予想したが、まあそこは男と女だ。力で何とかすれば良い。
(おう?)
しかし女は不快な顔一つすることもなく、逆に彼の胸に身体を預けてきた。
(おいおい、何だよこの姉ちゃん。えらく積極的じゃねえか)
期待以上の反応に、バドラックは調子に乗って女の髪に鼻を寄せた。
香水に混じって女性特有の何とも言えぬ香りがする。それが彼をさらに興奮させた。
(まさか復帰早々、こんな上玉とよろしくやれるなんてよ。
 ヴァルキリーんときたぁえれぇ待遇の違いじゃねえか。)

腰に回した手をさらに下へと送り、顔全体を髪に埋める。
女は抵抗をしない。最高だ。鼻から息を吸い込む。
が、少し息苦しくなったのか、バドラックは一旦髪から顔を離して息を吸い直す。
すると香水に混じって何か妙な臭いがした。
(んん、なんだよオイ・・・・・・折角の良い気分をよ・・・・・・)
顔をしかめてもう一度鼻を嗅ぐ。何か錆臭い。それに腹が熱い。
違和感を感じて彼は自分の腹部――女の影になっている部分――を覗き見た。

(あ?)

腹には短剣が生えていた。根元は赤く染まって――
「ごぶぇ」
吐血した。内臓に傷がついたのだろう。
腹部の傷口からは多量の血が流れ、着衣を赤黒く染めていた。
(おいおいおいおい、何だ何だ何だ何だおい何だ――)
混乱するバドラックを、短剣を引き抜くために女が突き飛ばす。
普段なら決して負けることなどないはずの力によろめいた彼は、そのまま地面に崩れ落ちた。
(何だ、何だよ、畜生・・・・・・)
バドラックの全身を寒気と虚脱感が襲い、徐々に視界が霞んでいく。
(畜生・・・・・・俺ぁ、また、死ぬのか・・・・・・?)
身体が重い。しかし、このままでは終われない。
「ぐ・・・・・・ぐっ」
彼は血を吐きながらも最後の力を振り絞り、首を女の方向へ動かした。
赤く染まった短剣を持った女は、死に行く彼を見下ろしながら――笑っていた。

女――カチュア・パウエル――は、今やただの肉槐となった男を見下ろしていた。

反吐の出るような男だった。
今までまともな人生を送ってこなかったに違いない。殺されて当然だ。
故郷のゴリアテへ向かっていた途中に
この島に連れて来られたときこそ取り乱しはしたものの、
参加者名簿に『彼』の名を見つけたとき、私の腹積もりは決まったのだ。

デニム――私のたった一人の家族――に会いに行く。

それ以外の人間は、弟に危害を加える可能性のある危険なものでしかない。
ならば私は無害な人物を装い、騙し、近づき――殺す。皆殺す。邪魔はさせない。

「デニム、デニム、デニム――今、姉さんが迎えに行くわ」


【残り 99人】



【カチュア・パウエル(タクティクスオウガ)】F-5 草原/一日目・08:17
状態:やや興奮気味
装備:バルダーダガー(TO)
道具:支給品一式
思考:デニムに会う。他は殺す。
備考:服に少々の返り血がついています。

*F-5地点・木の傍にバドラックの死体が放置されています。
*バドラックの支給品は彼の死体が背負ったままです。

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