011/弓はなし、銃はなし◆8ZBPqOrD.Q


「……!」
 間合いをとった、と、フリーは確信する。
 自分の投げつけた銀のフォークが、背後から近寄ってきていた痩身の男の衣服をわずかに裂いて、
 地面に突き刺さっているのを見た瞬間、すでに、右手はナイフを投擲するための構えに入っていた。

「待ってくれ! 僕は敵意を持っていない」
「この状況で、信じられるか?」

 男は、フリーにとっては見慣れない珍妙な色付きの眼鏡をかけていて、 いかにも胡散臭く思えた。
 細身で、やや神経質そうだが端正な顔立ちの青年である。
(俺と、同い年くらいかな)
 構えを崩さぬまま観察するフリーに、律儀に両手を上げたまま、生真面目な様子で男は言った。

「僕は警察官だ。何がどうなっているのか理屈は解らないが、あのユーゼスという不気味な仮面の男は、
あれだけの人に殺人を唆し、どころか、もう一人殺している」
「けいさつかん……?」

 不思議な響きだった。
 見知らぬ単語を口の中で反芻しながら、フリーは、男を見据える。
 男は、眼鏡の奥からしっかりと目を合わせてきた。

「どんな仕掛けであれだけの人が集められ、そしてこんな風に飛ばされているのか、見当もつかない。
だが、この場所で行われようとしていることは重大な犯罪行為だ。外部の応援を呼んで、こんな馬鹿げたことはやめさせる」
 一気に言ってから、男の顔に、まさか、という色が浮かんだ。
 猜疑の目が、フリーと、フリーの右手のナイフの間を行き来する。
「君は」
 きれぎれにかすれた声で、男は続けた。
「君は、乗ったのか」

「違う!」

 フリーは、大声で怒鳴り返す。
 この殺戮ゲームに乗った、などと思われるのは、ブラッドやレオや、何より彼の敬愛した師匠ととも続けてきた
 戦いの日々に対する冒涜のように感じられた。

「俺はこんな場所で殺さない。俺の武器は、別のことに使うためにある、別のものだ!」

 驚いた顔をする男に、続けてフリーは問いかけた。
「けいさつかん、っていうのは何だ?」
 男は呆気に取られた顔をしたが、やがてため息をつくと、右手を上着の内ポケットに差し込んだ。
 ナイフを持つ手を緊張させるフリーに気づいているのかどうか、
 すぐにその手は空のまま戻されて、男は天を仰いだ。

「警察手帳も奪われている、か。……君は、僕とは違う世界から連れてこられたんだろう。どう言えばいいか……、
そうだな、一般市民を犯罪から守るのが、僕の仕事だ。僕は今、この事態を収拾したいと思っている。君はどうなんだ。さっき違う、と言ったろう」
 市民を犯罪から守る。その言葉から連想したのは、騎士団の常日ごろの仕事である。
 本当に、この男は、殺しあう気はないのだろうか。

「どうして背中から近づいた?」
「君が敵か味方か解らないからな。
もっとも、見てのとおり僕は丸腰だ。何かしたくても、できないさ」
「名前は?」
「周防だ。周防克哉。君は?」
「フリー。……あんた、本当に外と連絡を取る気か?」
「本気だ。こうして連れて来られている以上、脱出手段もあるはずだ。
もしかすると通信施設があるかもしれない。力を合わせて探索したほうがいい。
フリー、協力しないか」

 周防克哉は、長身にはいささか不均衡な細い手首をさしだす。
 もし万一のことがあっても、力勝負では自分が勝てるとフリーはふんだ。
「ひとつ、確かめさせてくれ。俺の支給品は見てのとおりだけど、あんたは?」
「……これさ」
 自嘲的な微笑みとともに、周防克哉は、ズボンのポケットから小石を取り出した。

「馬鹿にしているよ。これが武器か。
銃とは言わないが、せめてもう少しましなものがあれば、身を守るにも不安が少ないんだが」

 艶のない、真っ黒な小石。
 周防の掌の中のそれは、どこか騎士団で大事に使われている魔法の品々に似た気配を放っていたが、
 フリーにはその気配が何によるものなのか、わからなかった。

(いや……本当にただの石ころか。団長やミレッタなら、わかるのかな)

 少なくとも、周防の武器は脅威になるものとは思えない。
 安堵を悟られないように表情を抑えながら、フリーは周防に近寄り、差し出された手を取った。
「俺は人を探してる。そいつと合流するまでだ」
「それでも構わないさ。殺し合いに加わる気のない奴がいてくれるのは有難い」
 周防克哉は、色眼鏡の奥で安心したように微笑んだ。
「……これは拾っていこう。貴重な武器だ」
 地面に突き刺さったままだったフォークが、周防の手によって抜かれたそのとき、
 鋭い破裂音が東方の森の奥から響いた。
 銃声だ、と、低く周防がつぶやく。
 後に続いたざわめくようなわずかな気配の移動は、
 もしかするとこの森にも小動物がいる証かもしれなかった。
「はじまっている……少し離れたほうがいい」
 うなずきあって、二人の男は早足に歩き出した。

【フリー・アルヴァロス(ヴィーナス&ブレイブス)】B-2 森/一日目・08:30
状態:やや緊張
装備:食器一組のうち、ナイフとスプーン
道具:支給品一式
思考:レオ・ガッタカムとの合流

【周防克哉(ペルソナシリーズ)】B-2 森/一日目・08:30
状態:やや緊張
装備:支給装備/サモナイト石・機(召喚獣不明)
   拾ったフォーク
道具:支給品一式
思考:外部との連絡手段を探すため、探索する


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